2022-10-28 UP!

(写真1)講師の近藤敦氏

10月1日(土)に、時習サロン「多文化共生と人権」が開催されました。昨秋、今春に続き、時習31回生が幹事を担当しました。
今回は時習31回卒業生の近藤敦君(写真1)を講師に招き、移民の人権について「法」を通じて取り組んできた専門家として、要点を押さえつつ濃密に語ってもらいました。
またもコロナウイルスの影響下での開催となり、会場とリモートとの併用開催としました。同窓諸兄姉のご教導、ご参加に感謝申し上げます。
今回の会場は、新御茶ノ水駅直上にある「連合会館」の会議室。ここに20名、加えてリモート参加13名の計33 名の皆様にご参加いただきました。この状況下、またご多忙の中、まことにありがとうございました。
まず、講師の近藤敦君をご紹介いたします。彼は1960年8月名古屋生まれ、豊橋市育ち。時習館高校31回生(79年3月卒業)。現在名古屋市天白区在住。89年に九州大学大学院単位取得 、96年 博士(法学)。名城大学法学部教授、主な研究分野は憲法、国際人権法、多文化共生。名古屋多文化共生研究会会長。多くの自治体で多文化共生推進プランづくりに参加。趣味は大谷選手の試合などスポーツ観戦。
最近の著書は『多文化共生と人権』(明石書店、19年)、『人権法〔第2版〕』(日本評論社、20年)、『移民の人権』(明石書店、21年)。
以下、当日の講演内容を要約いたします。

「移民」その定義

●東三河の例:外国人集住都市・豊橋の実像。人口の5%が外国人、出身国は❶ブラジル、❷フィリピン、❸ベトナムの順に多く、永住者・定住者の比率が高く、年齢層は20歳~40歳が多い
●日本は「移民」を受け入れない、「移民政策」をとらないというが、生産年齢人口が急速に減少する中、実態として外国人労働者の受け入れは多い
●米国の入管法では「入国の時点で永住権を有する者」が移民→「就労目的の在留資格による受け入れは移民にあたらない」という解釈
【移民政策・在留資格について】
●移民政策は入国に関する入管政策と、社会参加に関する統合(多文化共生)政策の二本立て
●日本の外国人人口は2.3%とされる(潜在的移民国家・いわゆる先進国レベルには及ばない)
●18年改正(19年4月施行)の新在留資格「特定技能1号と2号」→技能実習からの条件付き移行が可能
●専門的・技術的分野の受け入れは積極的に、単純労働の受け入れは慎重に、という方針→が、実態としては後者について①非正規滞在者、②日系人とその家族、③研修・技能実習生という抜け穴が存在
●技能実習制度(93年制定・この30年で2万人から38万人に増加)→本来は国際貢献、技術移転だが、実態は「出稼ぎ」化する
●入管法改正(18年)のポイント→3年の技能実習を修了した「相当程度」の「半熟練」労働を「単純労働」と区別→しかしながら、帰国を前提とした国際貢献という本来の趣旨との矛盾は残る
●新設された「特定技能1号」の在留資格が最長5年間で、技能実習の期間も含め8年以上も家族の帯同を認めないことは、家族結合の権利(←自由権規約に保障される)の侵害ともなりうる。技能実習制度を廃止し家族(配偶者や子)の帯同が可能な「特定技能2号(熟練労働)」の受け入れを中心に考えるべき
●日本には、移民の統合政策に関する包括的法律がない。EU、他のOECD諸国、その他56ヵ国における比較→移民統合政策指数は34位にとどまる。「教育」、「政治参加」、とりわけ「差別禁止」の指数が低い(技能実習生への人権侵害などが問題)

日本における多文化共生

●日本の多文化共生の理念は文化の選択の自由、平等、共生。ヨーロッパ諸国の自治体でのインターカルチュラリズム(「間文化主義」とも訳される)に近く、文化的多様性を都市の活力や革新、創造、成長の源泉とする政策。
●浜松市の「インターカルチュラル・シティ指数」は世界88都市中22位。国レベルの評価は低いけれども、自治体としては進んでいるといえる
●「文化の選択の自由」は国籍や民族などの異なる人々が互いの文化を認め合うこと
●情報の多言語化に「やさしい日本語」のメニューを加える(例:災害時に理解しにくく使いにくい敬語・カタカナ語を用いず「危ないから上へ逃げろ」等と教える)
●日本に定住してもらうことを念頭に置くと、国が日本語の学習支援をする必要あり。さらに母国語の学習支援も必要→「日本語教育の推進に関する法律」が成立し、「家庭における言語(母語)の重要性に配慮する」と規定されている

外国人の権利・その焦点の変遷

●戦後の外国人政策の基本理念と新たな権利問題を4期に分けて解説
①45~79年(排除と差別と同化の時代)は市民的権利、
②80~89年(平等と国際化の時代)は社会的権利、
③90~05年(定住と共生の時代)は政治的権利、
④06年~(多文化共生の時代)は文化的権利が、それぞれ重要課題となる

多文化共生時代の憲法解釈

●現在、焦点があたっている文化的権利は、憲法にはないが人権規約にはあり、言語なども文化的権利として認識されている→例:二風谷(にぶたに・北海道)訴訟判決(伝統的なアイヌ文化の伝承が二風谷村でしかできないとして、それを奪うことは違法であるという判決)を導く際、自由権規約27条「自己の文化享有権」と同様の、憲法13条「個人の尊重」に拠ることができる
●教育を受ける権利は文化的要素を持つもの。憲法26条と13条によって「多文化教育を受ける権利」の保障とも解釈できる。複数の条文を結び付けて憲法にはない新たな権利を導く解釈手法(融合的保障)で人権条約と憲法の整合性を図ることができる(=人権条約適合的解釈)
●外国人児童生徒の不就学問題が存在する。外国人の子どもに教育を受けさせる義務を外国人保護者にも認めるべき(就学義務→家庭教育も含めた教育義務)
【外国人の人権と憲法】
●外国人の人権をめぐる憲法解釈としては、「わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶもの」として「平等」と「共生」を謳う
●「平等」→憲法14条と人種差別撤廃条約中の人種差別の禁止には民族差別も含まれる
●警官が外見から外国人と判断して職務質問をし、在留カードや旅券等の提示を求めることがあるが、欧米では人種差別となる
●形式的平等でなく実質的平等の実現(多様な状況を合理的に配慮した現実的な格差是正)が必要
●平等についての法律が整わない現状では自治体が条例で補っている
●「共生」→憲法前文の「諸国民との協和」や、11条・97条の基本的人権の保障から、国民と外国人との共生に向けた憲法的解釈ができる
【ここまでで時間いっぱいになってしまいましたが、今後の課題として】
●外国人の地方参政権、複数国籍の容認、差別禁止法等に注目

まとめ

●増加する外国人と一緒になって国を作っていく、そのための仕組みを作るべき時期に来ているのが現実で、それは日本ばかりでなくどの国も直面している課題といえる
このあと、参加者から講師への質問をいただき、近藤君にその場で回答してもらいました。さらに講演中の重要ポイントで出題された10問の5択クイズの成績優秀者への賞品贈呈。今回の賞品は故郷の味覚セット。会場の授賞者の方々の好評を得ました。参加者全員での記念撮影ののち、無事閉会となりました。



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